裁判員体験記

裁判員体験記 「はじまり」 ~vol.1~

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判決の時

2021年12月24日(金)

「それでは被告人に判決を下します。被告人、前へ」
被告人が証言台に立つと、裁判長は判決文を読み上げます。

「判決主文を読み上げます。被告人を……」
判決を聞いた被告人は、裁判長に向かって静かに頭を下げました。

「終わった。長かった裁判がようやく終わった……!」

3週間に渡る公判が終わりを迎えた瞬間。わたしは肩の荷が下りたような、晴れ晴れとした気持ちになりました。

わたしについて

初めまして、「裁判員6号」と申します。普段は小さな出版社で「編集アシスタント」の仕事をしています。

趣味は陶芸からパラグライダーまで、面白いアクティビティを体験すること。

この前は浅草でたい焼き作りをしました

これは法律の素人であるわたしが、裁判員として法廷に参加した記録です。

そもそも裁判員制度って何?

裁判員制度とは、平成21年に作られた制度です。国民が裁判に参加し、被告人が有罪かどうか、有罪の場合はどのような刑にするのか、裁判官と一緒に刑を決めます

扱う事件は国民の関心が高い重大事件となっており、殺人、強盗致死傷、放火、傷害致死、危険運転致死などがあります。

心臓に悪い「最高裁」からの封筒

2020年11月

そもそもの始まりは一通の封筒でした。差出人の名前を見わたしは、思わずドキリとしました。

差出人は「最高裁判所」だったのです。いきなり最高裁から連絡が来るなんて、ただごとではありません。

「自分はいったい何をやらかしたんだ」

恐る恐る封をあけると、そこには「裁判員裁判候補者」に選ばれたというお知らせが入っていました。

お知らせの内容を要約すると「あなたは裁判員裁判の候補者に選ばれました。詳しくはまた連絡するので、そのままお待ちください」というもの。

自分が裁判員になれるかもしれない? それはとてもワクワクすることでした。素人が法廷に参加するなんて滅多にできない体験です。

でも、この段階で自分にできることは何もありません。数日もすると、わたしは裁判員候補に選ばれたことなどすっかり忘れてしまいました。

2021年10月

時は飛んで1年後。再びドキッとする封筒が届きました。今度の差出人は「東京地方裁判所」でした。

「最高裁判所」から封筒が来たときは現実感がなかったけれど、「地方裁判所」なら相当リアルです。再び胸をドキドキさせながら封を切りました。

封筒には「裁判員等選任手続きのお知らせ」が入っていました。これは
「あなたたち候補者の中から裁判員をくじで決めるので、参加する人も辞退する人も連絡をください」というものです。

「やっぱり自分が候補に選ばれたのは本当だったんだ」

お知らせには「もし参加する場合、12月6日から24日まで休暇を取ってもらう必要があります」と書かれていました。

果たして3週間も休みが取れるでしょうか……? メールで上司に相談すると、二つ返事でOKが出ました。これには感謝です。

運命の抽選日

11月30日(火)

裁判員裁判選出手続き当日。

手続きは平日の昼間に行われるため、わたしは仕事を途中で抜けると「東京地方裁判所」へ。
「霞が関」駅を出るとすぐ目の前に裁判所がありました。でも……

「ええー……」

裁判所前は市民活動の立て看板がいくつも並べてありました。そのそばでは活動家がスピーカーで何かを訴えています。
法の番人である裁判所がこんな状態でいいのかな……それはともかく建物の中へ。

手荷物検査を済ませると2階で受付をすることになっているのですが……館内で工事が行われていたため、階段が見つかりませんでした。
しばらくうろうろした後でようやく階段を発見。

このミスがわたしの運命を決めることになります。

2階ではちょうど一人の女性が受付を行うところでした。
彼女に続いて受付を済ませると、書類と「16番」と書かれた札をもらいます。

案内されたのはセミナールームのような部屋。そこには見た目が30~60代と思われる男女が20人ほど集まっていました。

待っている間、受付でもらった資料を読んでみます。すると裁判に参加するための質問事項があり、
「あなたは被告人と面識などはありますか」
と書かれていました。

被告人の名前もわからないのにそんなこと答えられないよ。そう思って次のページをめくると、驚くことが書かれていました。
そこには起訴状のコピーがあり、被告人の名前と住所、そして罪状が書かれていたのです。
被告人が犯したのは婦女暴行。計4人の女性に「強制性交」「強制わいせつ」を行うという、胸が痛む事件でした。

それはわずか一秒で、自分が非日常の世界に踏み入った瞬間です。

調書には彼の犯行内容が書かれており、「逃げようとする被害者を殴打した」「『逃げたら殺すって言ったでしょ』と脅し、無理やり性交をおこなった」などの情報がありありと書かれていました。

自分が裁判員になったらこの事件を裁かないといけない。そう思うと、プレッシャーを感じる一方で「それでも裁判員になりたい」という気持ちがわいてきます。

集合時間になるとスタッフの人が来て、配られた資料について簡単にレクチャー。

続いて「裁判官・検察官・弁護士」など、今回の事件にかかわる人物が一同に集合し、顔見せを行いました。
顔見せが終わると検察官と弁護士が退出。

運命の六人が選ばれる。抽選のはじまり

裁判官と候補者だけが残り、いよいよ裁判員を決める時が来ました。

裁判長がマイクの前に立つと
「今から機械で抽選を行います。お手元にある番号札の数字を読み上げられた方が、今回の裁判員に選ばれます。選ばれる方は6名です
と言いました。

ここにいるのは20人で、裁判員に選ばれるのは6人。当選確率は30%か……いや、自分ならいける!

わたしは昔からくじ運が強く、絶対に当選するという自信がありました。そうだ、子供のころからアイスを食べれば当たりを引いたし、くじで「お菓子1ヶ月分」を当てたことだってある。大丈夫、きっと当たる……!

裁判長が退出し、しばらくして戻ってくると
「さて、抽選が完了しましたので当選者の番号を発表していきます」と言いました。

わたしの番号は「16番」。頼む当たってくれ!

「では読み上げていきます。当選者は……1番、2番
おいおいいきなり飛ばすな、16番まで残るかな?
「続いて9番、12番、13番……」
残るはあと1枠……お願い当たって!
「そして……16番! 以上の方が今回の裁判員となります」
当たった! 今までの緊張が、大きな安堵へと変わりました。

「さっき道で迷って良かった……!」

もし、わたしが裁判所に入ってすぐに階段を見つけていたら、女性より先に受付をして「15番」の札を受け取っていたことでしょう。方向音痴がこんなところでプラスになるなんて。

続いて2人の予備裁判員が選ばれると、落選者の人たちはここで帰ることになりました。

正直、これは今すぐ改善して欲しいポイントです。
今日ここに来た人は、わざわざ平日の昼間に集まってくれた。1年も前から裁判員になれるかもと期待して、ここまでやってきた。
それなのに最後の最後で「くじで外れちゃったからごめんね♪」では、あんまりな仕打ちだと思うのです。

こういう形をとっているのは「くじに当たった後で辞退する人がいるから」らしいけど、それなら
「抽選はオンラインで行って、当選者だけを呼び出す」ということはできないものでしょうか。

抽選が終わると裁判長から今後のスケジュールを教えてもらい、入館証をもらうと解散。初審理は12月6日に行われるとのことでした。

以上がわたしが裁判員裁判に選ばれたいきさつです。

この時のわたしはまだ、激動の3週間が始まることを知る由もありませんでした。

終わらない引継ぎ

「あとは仕事の引継ぎだな」
わたしは上司に改めて裁判員に任命されたこと、12月中は仕事に出られないことを伝えました。

引継ぎの期間は1週間しかなく、その間に持っている仕事をすべて終わらせる必要があります。
結論から言うと無理でした。最終日は深夜までヒーヒー言いながら残業するハメに……。

「『お知らせ』が届いたのは10月なんだから、その時点で引継ぎを行えばいいじゃん」と思うかもしれません。
でも、事前にガッツリ引継ぎをしておいて、もしくじで外れてしまったら猛烈に恥ずかしいと思いませんか?

というわけで、これも改善して欲しいポイントです。裁判員に選ばれてから初審理まで、もうちょっと時間をもらえると嬉しいです。

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