裁判員体験記

裁判員体験記 「Cさん医師尋問」 ~vol.8~

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公判7日目・Cさん医師尋問

公判7日目。

午前の審理ではCさんを診断した医師の話を聴取します。

医師は若い男性で、2020年に医師国家試験を合格して、研修医になったばかりとのことでした。

まずは検察の尋問。いつもの女性検察官が、Cさんが診断に来た時の様子を尋ねます。

その結果Cさんには髪が引き抜かれた跡や、後頚部に擦り傷ができているということがわかりました。これは被告人ともみ合いになった時にできた傷のようです。

医師によると傷の状態は「全治5日」とのこと。

すると主任弁護人が、医師の「全治5日」という発言に猛反発しました。
「あなたは警察の証言で『全治2週間』と証言したのではないですか? なぜ今になって『全治5日間』になるのでしょうか」
「それは全治期間と完治期間の認識の違いで……」

なぜ弁護人がこんなに怒ってたのか、正確には理解できませんでした。すごい勢いで専門用語が飛び交うので、メモを取り切れなかったのです。

とにかく「全治5日」と「全治2週間」で発言が食い違っていることに怒っているのは間違いないようですが。

しばらくピリピリしたやり取りが続いたあとで、主任弁護人が医師に向かって
「最後に確認しますが、あなたは本当に、国家医師試験に合格したんですね?」と言ったのが印象的でした。これは相当怒ってるな。

お米が絶品! 農林水産省でランチ

医師の尋問が終わると早めのお昼休憩になりました。

今まで裁判所地下のコンビニでご飯を買っていたわたしは、気分転換に外でランチを取ることに。

向かったのは東京地方裁判所から徒歩3分の「農林水産省 北別館」。

噂では農林水産省には一般の人でも入れる食堂があって、そこのご飯がものすごくおいしいのだとか。

「国の食を司る農林水産省のランチ、期待できそう」

ということで和食・カフェテリア「手しごとや「咲くら」に入店。

メニューを見ると、「いわし鯨の竜田揚げ」「牛タン御膳」「しらす揚げ丼」など、社食とは思えないほどバリエーションが豊富! すべてのメニューに「食料の自給率」が書いてあるのも、なんか農林水産省らしくていい。

どれにしようか迷った末、「竜田揚げあんかけ丼」を注文。さて、竜田揚げとあんかけの相性はいかほどか?

一口食べると……うっ、うまい。

竜田揚げは噛むとジューシーな肉汁が口の中にぶわっと広がります。そこにあんのとろみが加わって、まろやかな口当たりに。

お米は一粒一粒がふっくら炊けていて味が濃厚! 食感が軽くて、次から次へと食べられます。

どうなってるのこれ……おかず抜きで食べられるほどご飯がおいしいんだけど。

一口もう一口と食べていたらあっという間に器が空に。恐るべし農林水産省

12時を過ぎると食堂にはスーツ姿の官僚と思しき人たちがやってくるようになりました。こんなおいしいご飯を毎日食べられるなんて、うらやましい。

被告人質問(検察側)

お昼休憩が終わると審理は「被告人質問」へと移ります。

被告人質問では、検察や弁護人が被告人へ尋問を行います。公判初日以降ずっと黙っていた被告人が再び口を開くときがきたのです。

被告人は4人の被害者の証言を聞いている間、黙ってメモを取り続けていた。それがどう証言に影響するのでしょうか。

被告人は警察官に両脇を守られた状態で証人席に座りました。

まずは弁護人が被告人に、年齢や出身地、略歴などを聞きます。

わたしはここで「被告人がミュージシャンを目指していたこと」を知りました。

実は被告人の名前でネットを調べれば、こういう情報は簡単に見つかります。彼は一部界隈では有名人らしく、いくつもゴシップ記事が出てきました。

ですがネットに書かれている情報なんて何が真実かわかりません。公平に審議するため、わたしは被告人について何も調べないようにしていました。

「ホスト活動は何年続けていましたか?」
「途中でやめることもあったけど、6~7年はやっていました
「バンドの担当は?」
「ボーカルです」
「バンド活動はどれくらいの人気がありましたか?」
「ライブハウスでワンマンバンドできるくらいには人気がありました」

被告人はホストのアルバイトで3年間「売り上げナンバーワン」の記録を持っており、多い時は月500~600万円も稼いでいたのだとか。

ホストクラブで勤めていた間、被告人はほぼ毎日、お客さんと性的関係を持っていたとのことでした。
「女性側から関係を求められるし、やりたいと思う女性とはたいてい関係を持つことができた」と、被告人は語ります。続けて
「あの時は感覚がマヒしていて、セックスが日常の一部になっていました」とも証言。

審理初日に主任弁護人が言っていた「性に関する認知のゆがみ」は、ここで生まれたのかもしれません。

弁護人が質問を続けます。
「あなたはなぜホストクラブを辞めたのですか?」
「お客さんとトラブルになって、辞めたくないけどそういう雰囲気になったので辞めました」
「それからお仕事は?」
「ホストを辞めてから2年間は働いていません

続いて検察官による尋問。4つの事件について、1つずつ質問していきました。
「あなたはなぜ、女性にキスを迫ったのですか?」
「その時は良い雰囲気だったので、やれると思ったからです」
「あなたはなぜ、拒否した女性に暴行や脅迫を行ったですか?」
「その時は怒りが頭を支配してしまって、自分でも何をしているかわからないんです。怒るとこう『ガー』ってなって、自分で自分がわからなくなるんです」

続けて被告人は
「今までも、バンドが売れそうな時とか、ホストで売れている時とか、成功のチャンスはいくらでもあった。それなのに怒ると我を忘れてしまって、すべて台無しになってしまうんです。もう本当に、自分で自分がわからないんです
その声には戸惑いと怒りが含まれていました。

被告人質問(弁護側)

次は弁護人による質問。青年の弁護人が被告人に対して事件の詳細を尋ねました。
彼は2時間かけて、被告人が4人の被害女性と会った時のことについて質問します。

何度も述べたように、犯行の流れは
・被告人、ナンパやマッチングアプリで被害者女性と知り合う
・被害者女性を自宅マンションへ連れ込む
・被害者の体に触れるも拒否され、被告人は激怒。
・被害者を「殺すぞ」と脅迫する
・被害者に殴る・首を絞めるなどの暴力を振るい、わいせつな行為をする

という流れになっています。被告人の証言を聞いても、その事実は揺らがないようでした。

女性に拒否された時の被告人の気持ちですが、
「良い雰囲気だと思ってたのに、『えっ、なんで?』と思いました」と証言。
被告人はこの「えっ、なんで?」というセリフに感情をこめてしゃべるのですが、その声には
「なぜ拒絶されるのか、本気で理解できない」という音色が含まれていました。

「Bさんは暴行を受けた後、あなたの部屋から逃げようとしました。そしてあなたはBさんを追いかけてつかまえようとした。それはなぜですか?」
「それは、Bさんが怒っている理由が本当に理解できなかったんです。だから『怒ってるなら話し合おうよ』って追いかけました」
彼には女性たちがマンションから逃げようとする理由が、本当にわからないのか……?

さらに
「あなたはなぜ、被害者女性に無理やり口淫や性交を行ったのですか?」
という弁護人の問いかけに対し、
「それは被害者が『わかったから落ち着こう』って。『わかった』と言ったから、彼女は性的に同意しているのだと思いました」
などと回答。

被害者は暴行や脅迫を受けて、助かりたい一心で「わかった」と言った。それを被告人は「OKの合図」と拡大解釈してしまうようなのです。

すると弁護人が尋問の最後に
「被害者の方が『わかった』と言うのは、あなたが被害者を脅したから、あなたを怒らせないように言ったってことを理解しているんですか?」
と詰問口調で言ったのが印象的でした。弁護人がそれを言うんだ……。

この日の審理は午後3時に終了。帰り際、わたしはサウナに行って気持ちのいい汗をかきました。


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