裁判員体験記

裁判員体験記 「評議1日目」 ~vol.11~

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大遅刻の評議初日

12月20日(月)

この日は審理予備日ですが、審理はすべて終わっているためお休みです。

「裁判は心理的に疲れることが多いけど、たいてい午後3時には終わるし、休みが多いのも助かるなー」

そんなことを考えながら部屋でゴロゴロしていたら、一件の着信がありました。

わたしは嫌な予感がしました。ほとんど電話を使わない自分に着信がある時は、いつも不吉なことが起きます。

そわそわしながら電話に出ると
「おはようございます。地方裁判所ですが今どちらにおいでですか? 午前10時からの評議には出られそうでしょうか?

裁判員係の男性からでした。

「えっ……え? でも今日は審理予備日で、お休みのはずで……」
「はい。審理は問題なく進んだため、通常通り評議を行う予定でございまして」

心臓がぎゅっと潰れるような思いでした。現時刻は午前10時20分。大遅刻だ……。

「すみません。すぐそちらへ向かいます」
わたしは大急ぎで支度をすると、走って駅まで向かいました。(あとで審理表を見たら、ちゃんと「評議(審理予備日)」と書かれていました)

評議室に到着したのは11時。1時間も遅刻したわたしを、裁判官・裁判員のみなさんは辛抱強く待ってくれていました。
「本当にすみません。スケジュールを勘違いしていました」
わたしが平謝りすると、A裁判長は
「審理で遅刻は困るけど、評議は我々だけで行うのでなんとかなるでしょう」と言ってくれました。

評議と守秘義務について

そして評議の始まり。

評議では「起訴された事実」を認定し、被告人を「どんな刑を科すべきか」を議論します。

しかし裁判員には守秘義務が課せられており、評議の内容については一切語ることができません

これは
「評議の内容を秘匿することで、裁判員のプライバシーや批評から守るため」
「評議の内容が漏れると裁判の際に悪用される恐れがあるから
だそうです。

守秘義務に違反すると「6月以下の懲役や50万円以下の罰金」が科せられます。

正直、わたしはこの守秘義務という制度にあまり納得していません。

評議が裁判員裁判の一番の肝と言ってもいいのに、その大事な部分を口止めされて面白くないのです。

とりあえず、わたしは評議を体験して思ったことを書き残しておきます。それは

・事件のメモをきちんと取っておくと、評議の時にすごく役に立つ
・裁判官に任せるのではなく、裁判員たちで積極的に意見を言った方が良い
の2点。

メモを取っていると、事件の事実認定を行う際に
「〇〇は××だったか?」
「△△は●●と判断できるか?」
などの議論をする時、積極的に意見が言えます。メモはちゃんと取りましょう。

また、積極的に意見を言うことについて。

議論には裁判官も参加しますが、あくまでも裁判員裁判の主役はわたしたちです。

あの白髪の主任弁護人が言ったように裁判の参加は国民の主権です。

しっかり事件について考えて、自分の意見を述べること。それが、法の下に自由を保障された国民の取るべき行動だと思うのです。

評議を通じて、わたしは改めて
「裁判員裁判なんて裁判官のお飾り」「裁判官が勝手に話を決めてしまうから、評議でいくら話し合っても無駄」
という考えが誤りであることを実感しました。

みんな事実を明らかにしようと、どんな細かいことも必死で検討し、議論していた。裁判官が勝手に話を決めてしまうなんてことは、全くありませんでした。

ランチは「チキンステーキ鉄板焼御膳」

ランチは今日も今日とて農林水産省。注文したのは「チキンステーキ鉄板焼御膳」

チキンが肉厚でプリプリ、でも農林水産省のランチにしては「普通」かな……。

メモを持ち帰りたい!

評議の休憩中、わたしはB裁判官に「事件のメモを持ち帰ることはできないでしょうか?」と掛け合ってみました。

裁判員はA4のコピー用紙にメモを取ることができますが、それを持ち帰ることができません。
今まで書いてきた記録は、わたしがメモの内容を必死に思い起こしながらまとめてきたものです。

書き溜めたメモの数は30枚。これがあるだけで、どれだけリアルな法廷劇が書けることか。

わたしはB裁判官に

  • 自分には傍聴人と同じく、事件のメモを持ち帰る権利があるはず
  • 加害者や被害者の不利益にならないよう、より正確な情報を書きたい

の2つを理由にメモの持ち帰りを嘆願しました。

B裁判官は「持ち帰って検討してみます」と言ってくれました。願いが届くといいな。

午前11時に始まった評議は午後4時30分に終了。

わたしはびっくりしました。事件に関してああでもないこうでもないと話し合っていたら、5時間があっという間に感じられたのです。

帰り支度をしていると、A裁判長、B裁判官が
「メモを持ち帰れないか内部で検討しましたが、ダメでした」と教えてくれました。

理由は簡単に言うと
「もしメモが流出した場合、その内容を見た人が『裁判員裁判ではどのように評議しているのかを推測される恐れがある』
「裁判員の自由を維持するため、流出がある可能性がある行動はとれない
「裁判員として裁判に参加する以上、傍聴人以上に情報の取扱いに責任が生まれる」とのことでした。

困った。確かにメモが流出した時のリスクは計り知れません。でもここで簡単に折れたくない。
「ちょっとだけ居残りして、その間にPCに書き起こしたりするのも無理ですか?」
しつこく粘ってみるも、それもダメでした。(流出しないという点では、これは良いと思ったんだけどなあ)

この時、わたしは居残りしてA裁判長たちとお話したのですが、正直生きた心地がしませんでした

裁判官に囲まれると、自分が「学級裁判でつるし上げを食らっている悪ガキ」ような気持ちになるのです。

「検討いただき、ありがとうございました」
わたしは足はガクガク、背中は汗ビショビショの状態で、逃げるように退室。

裁判官たちと向き合っていると、悪いことをしていないのに良心がうずくのはなぜだ?

結局メモは持ち帰れませんでしたが、最終的になんとかなりました。

というのも評議で事件について何時間も話し合っているうちに、事件や裁判の流れを完全に暗記できてしまったからです。

それでも、裁判を通じて
・守秘義務のせいで評議の内容を公にできない
・メモを持ち帰れないせいで記録を取るのに不便する
の2点に関しては、少し納得がいかない形となりました。

周りの人に感謝の気持ちを

この日は父の誕生日だったので、プレゼントに和牛のハンバーグを、母にはスパの割引クーポンを贈りました。

両親にプレゼントを贈るなんて十数年ぶりのことです。それなのにこんなことをしたのは、とにかく裁判で心理的にまいっていて、それを支えてくれた周りに恩返しをしたくなったからでした。


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