公判日目・Cさん尋問
12月14(月)
公判6日目。3連休をのんびり過ごしたわたしですが、あまり元気は戻ってきませんでした。
今日は4人目の被害者、Cさんの尋問に立ち会います。
裁判室に行く前にA裁判長が
「被害者の方のお話を聞くのは今日で最後です。あとは被告人質問とか、被告人の診断医などのお話を聞くだけなので、今日が終われば心理的に楽になるはずですよ」
と教えてくれたので、わたしは気合を入れて法廷にのぞみました。
Cさんはビデオリンクで証言を行いました。
「事件の当日、あなたは何をしていましたか?」
「わたしと被告人は居酒屋で会って……」
いつもの女性検事が、事件の詳細を念入りに聞いていきます。事件の経緯はいつもと同じ
・被告人、ナンパやマッチングアプリで被害者女性と知り合う
・被害者女性を自宅マンションへ連れ込む
・被害者の体に触れるも拒否され、被告人は激怒
・被害者を「殺すぞ」と脅迫する
・被害者に殴る・首を絞めるなど暴力を振るい、わいせつな行為をする
という流れなのですが、Cさんは違いました。
彼女はわいせつ行為を迫る被告人に対して激しく抵抗。そしてお酒のビンで被告人の頭を殴ったのです。
わたしは裁判員なので加害者・被害者どちらにも肩入れしない立場なのですが、この時だけは胸がスカッとしました。
今まで被害に遭いっぱなしだった女性たちの怒りが、この一撃に込められていた気がしたからです。
Cさんは持ったビンで被告人を威嚇しながら、非常階段からマンションを脱出したのでした。
最後に女性検察官が
「この出来事を通じて、被告人に対してどう思いますか?」と聞くと、Cさんは
「(被告人なんて)どうでもいいです。とにかくもう関わりたくない」
と言いました。
「この出来事の前と後を通じて、あなたの中で変わってしまったことはありますか?」
というお決まりの質問に対しては
「この体験は自分にとってすごく辛いもので、今でも事件の話をすると心拍数が上がります」という答えが返ってきました。
次は弁護側からの尋問。白髪の主任弁護士が、Cさんに
「あなたは示談書にサインしましたね」と質問します。
続けて、彼女が「告訴を取り下げます」という書類にもサインをしたことを確認。
被害者尋問を終えて
これですべての被害状況が明らかになったわけですが、とにかく犯行がワンパターンであることに驚かされます。
被告人は4件も犯行を重ねているのですが、途中で「自分の行いが犯罪だと気づかなかったのか?」「良心の呵責は感じなかったのか?」と考えさせられます。
もし自分の行いが犯罪だと思っていないのなら、それは相当悪質であると言えます。
いや、弁護側はそれを「悪いことだと感じていないのだから、彼には悪意がない」と主張するかもしれない。
ああ本当に難しい。少し見方を変えるだけで、一つの事実が白にも黒にも見えるような気がします。
Cさん尋問・裁判員質問
お昼休憩を挟むと審理の再開。といっても、あとに残されているのは裁判官・裁判員からの質問のみです。
わたしは事前に裁判官と打ち合わせをした上で、Cさんに簡単な質問をすることにしました。
A裁判長が
「では裁判員6番の方から質問があるのでカメラを向けます。どうぞ」
と言うと、カメラがわたしを映しました。
わたしはCさんに「被告人とはマッチングアプリで知り合ったそうですが、お酒を飲みに行く場所を決めたのは誰ですか?」と、質問。それに対してCさんは
「被告人です」と回答しました。
このように審理の際、裁判員は被害者や被告人に質問することが可能です。
でも、今まで裁判員から質問があった場合、わたしたちは代理としてC裁判官女史に質問をしてもらっていました。
それでも今回、わたしは自分からCさんへの質問を行いたいと志願しました。
わざわざそんなことをしたのは「『自分もれっきとした裁判の一員である』ということを、検察官や弁護人、傍聴人に伝えたい」という思いがあったからです。
法廷で発言するのはものすごく緊張して、体中から変な汗が出たのを覚えています。
一つの山を越える
こうしてこの日の審理は終了。午後2時前に早上がりとなりました。
「これで被害者のみなさんのお話を聞き終わりました。これで一つの山は越えたという感じですね」
と、A裁判長。
現金なもので、わたしはこの日を境に見る見るうちに元気を取り戻していきました。夜はぐっすり眠れるし、耳鳴りは収まったし、食欲も元通りに。
もし裁判員裁判に参加するのが不安な人がいたら「被害者の証言を聞くのが一番の山ですよ」と伝えたいです。
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