公判5日目・Aさん尋問
12月10日(金)
公判5日目。この日は3人目の被害者・Aさんの尋問を行います。
Aさんもプライバシーに配慮するため、パーティションが置かれた状態で証言席に立ちました。
まずは検察側の尋問。いつもの女性検事が、淡々と事件の詳細を聞いていきます。
被害者の尋問はこれで3回目ですが、何度体験しても慣れない。
被告人は巧妙な手口で被害者女性をマンションに引き入れ、そこでわいせつな行為を迫るのですが、その様子を聞くだけで心が痛みます。
また、被告人は事件後にAさんに対して
「今度和食を食べに行かない?」
「自分はAのことを真剣に考えている」などとLINEで送信したことも判明。
暴行を働いた相手をデートに誘うなんて、ちょっと信じられない気持ちです。
事件の後、被害に遭ったAさんは警察へ行きました。そして警察官と一緒に被告人の家を探します。
まもなくAさんは被告人の家を発見。さらに被告人がアパートのエントランス前にいる姿を目撃したのです。
(そこで被告人を逮捕していたら、もう事件は終わりじゃん!)
それでも逮捕はできなかったらしく、その後Aさんは警察で調書などを書いて帰宅しました。
B裁判官いわく
「警察の捜査情報はこちらではハッキリとわからないが、現行犯でない限り逮捕は難しいのではないか」とのことでした。もどかしい話です。
尋問の最後に女性検察官が
「あなたの中で事件の前と後で変わってしまったことはありますか?」と、いつもの質問をします。
Aさんが「しばらくは事件のことを思い出して泣いたり、男性のことを怖いなって思うことがありました」と語ったところで閉廷。
Aさん・弁護人尋問
お昼休憩が終わると開廷。弁護人による尋問が行われます。
主任弁護人はAさんに
「あなたは示談に応じましたね?」「示談金を受け取りましたね?」などと質問。
また、Aさんが示談書に署名・捺印したことを確認すると、
「あなたはなぜ示談書に署名したのですか?」と質問。Aさんは
「署名することでこの事件を思い出したくないから」と述べました。
こうして午後の審理が終了。
評議室へ戻るとA裁判長が苦労をねぎらってくれました。
「みなさん1週間お疲れさまでした。性犯罪の被害者の話を聞くのは、意識していなくても心にダメ―ジを受けます。辛いときはその気持ちをここでシェアするといいですよ」
続けて
「4人もの性的被害者が出る事件なんてわたしも体験したことがありませんから、みなさんは疲れて当然です。『頑張ろう』と思わずに、自分のできる範囲で行動していただければ結構です」
と言いました。裁判長としての威厳があるのに、気さくな面もあってすごいなこの人。
辛いときはSOSを出して
月曜から金曜までぶっ通しで裁判に参加したわたしは、もうくたくたでした。
東京地方裁判所を出ると、いつものように今日の出来事をまとめるため近くのカフェを探します。
なんとなく「日比谷」駅で電車を降りると、適当なお店がないかブラブラ。
華やかに飾り付けられたクリスマスツリーや、ライトアップされた街並みを見て、あぁ、世間はクリスマスなんだなとしみじみしました。
「クリスマスおめでとう! みんなは楽しそうでいいよね、こっちは性被害にあった人の話を毎日聞いて、ストレスで気が変になりそうだよ! もう逃げ出したいよ!」
と叫びたくなりました。
なぜこんなにも辛いのか。それは「裁判員」という立場に向き合いすぎたからだと思います。
どんなに被害者の辛い話を聞いても、わたしは「裁判員は中立の立場だから、あまり肩入れしちゃだめだぞ。彼女たちが嘘をついている可能性だってあるんだぞ」とブレーキをかけてしまう。
それでも被害者たちの話があまりに真に迫るものがあって、心がバランスを崩してしまうのです。
判決が下るのは12月24日。その日までに自分が正気でいられるのか、まったく自信がありませんでした。体はだるいし、耳鳴りは止まらないし、この状態が続いたら間違いなく体を壊します。
そこでわたしは友達や家族にSOSを出すことに。
裁判の内容を知人に語ることは守秘義務には違反しません。かといって、性犯罪の様子を他人に詳しく説明するわけにもいかない。
結局周りには
「詳しくは言えないけど、今の自分は裁判員として公判に参加しています。それで性被害者の女性の話を聞くんだけど、心が辛いんです」というメッセージを送ることしかできませんでした。
彼らはみんな理解がある人で、わたしのあやふやな相談に対して
「あなたが裁判員に選ばれたことにはきっと意味があると思う。応援してるね」と励ましてくれました。
明日は土曜日なので審理はお休み。さらに、月曜日もA裁判長とB裁判官の都合で審理が行われないため3連休ということになります。連休はとにかく休もう。休んで英気を養うんだ。
ちなみに月曜日はA裁判長とB裁判長は、溜まった裁判を一気に片付けるのだそう。2人とも
「1日に何件も判決を下さないといけない」と言っており、改めて裁判官ってハードな仕事だなと思いました。
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