裁判員体験記

裁判員体験記 「評議3日目・評決」 ~vol.13~

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勝負ランチ(1回目)

12月22日(水)

評議3日目。日程通りに議論が進んだ場合、今日で被告人の量刑が決まることになります。

わたしはとにかく発言することを意識しました。どんな小さなことでも気になったら、とにかく声に出して周りに伝えるようにしたのです。

自分たちがこれまで審理を行って来たのは、ひとえにこの評議のためです。

わかったこと、わからないこと。認めたいこと、認めたくないこと。ありとあらゆる事実をさらけ出すべく、とにかく手を挙げては意見を述べました。

そして昼休憩。気合を入れるため、ガッツリ食べたい気分でした。

「そうだ、アレを食べよう」

わたしはずっと気になっていた「牛タンステーキ御膳」を注文。そのお値段は1,380円! 勝負日だからこそ頼める値段です。

席に着くとさっそく牛タンを一口。

じっくり焼かれた牛タンは簡単に嚙み切れるやわらかさ。そこにネギ塩のタレがからんで、濃厚な味わいが楽しめます。

厚さも十分で食べ応えバツグン! もうご飯がすすむことすすむこと。

ご飯を食べ終えて評議室に戻ると、わたしたち裁判員は休憩時間中にもかかわらず議論をしていました。

「やっぱりあの件は〇〇じゃない?」
「あの件とあの件があったから、わたしは懲役〇年が妥当だと思う」

それはみんなで納得できる答えを出せるよう、全身全霊で事件と向き合っている瞬間でした。

評決の時

午後2時10分。

この3日間でわたしたちは10時間近く議論を続けてきました。
しかしとうとう意見が出尽くしたので、いよいよ「評決」を取ることに。

評決の取り方は以下の通りです。

  • 手元のメモに被告人の量刑を書く(全員が同時に書き込む)
  • 書かれた数字を一人ずつ読み上げる
  • 多数決で一番票の多かった刑に決定

そう、まるでクイズ番組のように
「わたしは懲役〇年です」
と、一人ずつ刑を宣言するのです。

補足ですが、多数決を採用する場合は「裁判官と裁判員の両方」の票が含まれていなければいけません。
極端な例だと、もし「裁判員6人」と「裁判官3人」という形で票が分かれた場合、「裁判官3人」の意見が採用されるのです。

これが「裁判員の票なんて意味がない。最終的な刑は裁判官が決める」という意見を生み出した原因なのではないかと思いました。

でも実際に参加してみればわかるけど、そんな風に意見が偏る可能性はほぼないのではと感じます。

量刑を決めるのはあまりにもプレッシャーが重く、ある女性が
「少し時間をいただけますか?」と提案しました。

そこでわたしたちはしばらく休憩することになりました。誰も一言もしゃべらず、必死で事件に関するメモを読み直します。

あの時ほど重苦しい時間はなかった。息をするだけでも精一杯で、お腹に石でも詰められたような気分でした。

午後2時30分。B裁判官が
「そろそろよろしいでしょうか?」と改めて聞きました。

わたしはペンを手に取ると、メモに数字を書こうとします。

心の中は逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。ただの数字を書くことが、こんなにも責任重大だなんて!

手が震えて書き損じてしまったので、別のメモに書き直しました。

刑が決まる瞬間

そして評決の瞬間。まずは裁判員たちが量刑を読み上げていきます。

続いて裁判官・裁判長が量刑を読み上げていきます。

多数決の結果に従い、被告人の量刑が決まりました

「わたしたちが刑を決めた!」

それはとても誇らしく、そして心苦しい瞬間でした。

わたしに人を裁く権利なんてあるのでしょうか?

法律なんて誰が決めたのでしょうか?

人が人を裁くなんてことが、本当に許されるのでしょうか?

この判決に正解はあるのでしょうか?

判決を聞いて、被害者の人たちはどう思うのでしょうか? 被告人はどう思うのでしょうか?

様々な思いが去来して、頭がくらくらしました。

少なくともわたしは国民としての義務を立派に果たした。それは誇りに思っていいぞ、自分。

こうして3日間にわたる評議は終了。体中からどっと疲れがあふれ出るのを感じました。

「みなさん本当にお疲れさまでした。以上で評議は終了です。あとは判決日だけですね」

わたしに残された仕事は判決の瞬間に立ち会うこと。今から緊張するなぁ。

重要な義務から解放されたわたしたちは、しばし裁判官の人たちと雑談をしました。
「やっぱり傍聴マニアの『阿曽山大噴火』さんって来てるんですか?」
「よく見かけますよ。彼は面白い裁判を見分けるのがうまくて、冒頭陳述を3~4分聞いた段階で『この裁判は面白くならないぞ』って思うと、すぐに退出してしまうんです」と、A裁判長。
「裁判官も法廷ドラマとか見るんですか?」
『イチケイのカラス』はわたしも見ましたよ。プロが監修しているのか、よくできていると思います」

いつもの雰囲気が戻ったところで解散。明日は評議予備日のためお休みです。

わたしはカフェに立ち寄ると、今日の出来事について考えてみました。

「本当にこれでよかったんだろうか?」

11月30日から始まった裁判員生活。それはあまりにも濃密すぎて、まるで3ヶ月もかかったような、逆に5日ぐらいで終わってしまったかのような、長くて短い時間だった。

被告人の証言を聞いている間は、あまりのストレスに潰れてしまいそうだった。

被害者の証言に胸を痛め、時には被害者を疑った。

被告人の気持ちは最後まで理解できなかったけれど、わからないなりに判断するしかなかった

事件をある方向から見たら黒に見えるし、逆の方向から見れば白に見えることもあった。

そんなことが何度もあって、何が正しいのか最後までよくわからなかった。そんな状態で刑を決めるしかなかった。

もう迷っても仕方がありません。答えの出ない問題に遭遇するたびに、自分で判断して前に進むしかないのです。

落ち着かない判決日前日

12月23日(木)

判決日の前日。今日は評議予備日なのでお休みです。

わたしは年末に備えて掃除をして過ごしました。溜まったゴミを捨てたら部屋がスッキリ。

お昼過ぎはカフェで記録作業です。作業に集中していて、気が付けば4時間も経過していました。

その後はスーパー銭湯のサウナでリラックス。家に帰ったのは深夜になってからでした。

わたしはとにかく体を動かして、暇な時間を作らないようにしていました。

なぜかというと明日が来るのが怖かったのです。判決日に何が起こるだろうと思うと、不安で仕方ありませんでした。

判決を聞いた被告人が怒りだしたらどうしよう。あの主任弁護人が「異議あり」と言って、その場で控訴したらどうしよう。世間から「不当な判決」と批判されたらどうしよう。

刑を決めるということは、それぐらい責任が重いことなのだと実感しました。

「この量刑に正解はありません」とB裁判官は言ってくれたけど、それでも不安は収まりません。

夜になったので仕方なく布団に入ったけれど、いつまでも眠る気にはなれませんでした。


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