公判2日目・Bさんの尋問
公判2日目。わたしたちは朝9時40分に評議室に集合しました。公判がある日は毎日この時間に集まることに。
A・B・C裁判官(3人)・裁判員(6人)・補充裁判員(2人)の11人がそろうと、裁判室へ向かいます。
関係者が全員揃うと開廷。今日は被害者Bさんの尋問を行います。
法廷にはパーティションが置かれており、Bさんの姿が被告人や傍聴人に見えないように配慮されていました。
プライバシーの観点から、被害者女性の見た目については説明しません。ただ、被害者は4名とも「若い女性だった」とだけ述べます。
Bさんは証言台に立つと「良心に誓って証言を述べる」という宣誓を行いました。(証言台に立つ人は、全員これを行っています。)
まずは検察からの尋問。昨日の女性検察官が、Bさんに事件の詳細を確認していきます。
詳細は省略しますが、事件の流れは前述のように
- 被告人、ナンパやマッチングアプリで被害者女性と知り合う
- 被害者女性を自宅マンションへ連れ込む
- 被害者の体に触れるも拒否され、被告人は激怒
- 被害者を「殺すぞ」と脅迫する
- 被害者を殴る・首を絞めるなど暴力を振るい、わいせつな行為をする
となっています。
Bさんの証言は聞く側にとっても辛い体験でした。彼女がどうやって被告人と知り合ったのか、なぜ被告人のマンションを訪れたのか、そこで何をされたのか。起訴状を読むだけではわからなかった事実が、次々と明らかになっていくのです。
特にBさんが被告人のマンションに上がり、暴行を受けるシーンについて証言する時など、全身が震えるような思いでした。
尋問では彼女が受けた暴力についても事細かく説明を受けます。
「わたしが被告人を拒絶すると、彼は激怒してわたしを何十発も殴りました」
「それからどうなりましたか?」
「頭を押さえてうずくまるところを殴られて、頭にコブができました」
それだけではありません。
「被告人は抵抗しなくなったわたしに〇〇をさせました」
「〇〇とは具体的にどういうことですか?」
検察官は性的な行為に関しても具体的に問いただすのですが、「これ、正確に口にしないとダメなの?」と何度も思いました。これがいわゆるセカンドレイプというのでしょうか。(これを書いているわたしも同じですが)
Bさんが被害に遭ったのは一年前ですが、その間も警察の取り調べなどで同じようなことを説明させられたはず。裁判ってもう少し被害女性の負担を減らすことはできないのでしょうか。
印象的だったのがBさんの態度です。彼女は毅然としていて、どんな質問に対してもはっきりした口調で証言をするのです。
わたしはそんなBさんに完全に同情しかけていました。ですが裁判員は「弁護人」ではありません。加害者側にも立たなければならないのです。
尋問の最後に女性検事が
「事件の前と後で、あなたの中で変わってしまったものはありますか?」と聞くと、Bさんは
「事件が起きた当初は外に出るのも怖かったし、夜も眠れなかった。今では恋愛なんてできないほど男の人が恐怖の対象になってしまった」
と語りました。
続けて彼女は「力がないってだけで、女性ってこんな扱いを受けるんだなって」
「生きていて一番の屈辱だった」
とも述べました。
検察官が最後に「被告人に対して何か言うことはありますか?」と聞くと、Bさんは
「できるだけ重い罪を着せてほしい」と述べました。
弁護人による尋問(示談書について)
続いて弁護人からの尋問。
まず、白髪の主任弁護人が示談書をBさんに見せると
「あなたがこの書類にサインしたことに間違いはありませんか?」と聞きました。示談書には被告人が示談金を支払ったという記録が残っています。
Bさんが「はい」と肯定すると、弁護人は
「示談書に書かれた文句に同意したということで間違いありませんか?」と確認しました。
示談書には「わたしはあなたの誠意を認め、謝罪を受け入れます。彼が厳罰を受けることを望みません」といった文言が書かれています。
Bさんは少しの間沈黙しました。そして、
「はい。自分は完全に被告人を許すことはできないという気持ちで署名しました」と述べました。
なんだろう、弁護人は遠回しに「あなたは示談に応じたのに、それでも訴訟するんですか?」とBさんを責めているような気がして、胸がザワザワします。
ここで弁護側の尋問は終了し、本日は閉廷となりました。
この日の傍聴席も満席で、傍聴人はおじさんおばさんがメインでした。中には居眠りしている輩もちらほらいるけど、何をしに来たんだこの人たちは。
感想を一言
評議室に戻ると裁判長がわたしたちに
「どんなことでも良いので感想をお聞かせください」と言ったので、一人ずつ感想を述べました。本当に一言か二言の簡単な感想です。
それがなぜか「裁判員の感想」は守秘義務に当たるそうで、ここでは書けません。全然大したこと言ってないのに……
全員が感想を言い終えると、裁判長は
「わたしたち裁判官も被害者の尋問が続くと気疲れしてしまいます。明日はお医者さんの尋問なので、そんなに疲れないと思います」と教えてくれました。
家に帰る前にわたしは昨日のようにカフェで書き起こし作業をしました。
それが終わると帰宅。部屋に戻るなりわたしは布団に倒れこんでしまいました。
「被害者の証言を聞くのが辛い……」
「元ホスト連続婦女暴行事件」の被害者は4人。あと3人も尋問が待っているなんて、気が遠くなる思いです。
この日からわたしは体調不良に見舞われることになりました。
- 体がだるい
- 耳鳴りがする
- 手に蕁麻疹ができる
- 夜眠れない
- 悪夢を見る
- 少しの物音でビビる
- ひどい便秘になる
こんな状態が連日続いて、見る見るうちに弱ってしまったのです。
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